2012年7月19日木曜日

「高校と大学の接続」入試選抜から教育接続へ (本の紹介)

「高校と大学の接続」(玉川大学出版部20052月 荒井克弘・橋本昭彦 【編著】)という本の紹介をしたいなと思っています。実は、私、この本を手にとるのは久しぶりなんです。
2006年くらいに読んだ本なんですが、今見ると、かなり読み応えのある本で、当時、よく読みきったな~なんて思っちゃいます。

この本のブックカバーにはこのように書かれています。
『大学の収容力が低いころには大学への受験競争が教育の牽引力の役目を果たしていたが、高等教育に多くの人々が接するようになった今日、初中等教育の中身を確かなものにし、高校と大学の関係から大学入試を考えることが肝要になってきている。教育を充実させるステップとしての入試選抜に代わる新しい形態を教育接続と呼べば、それはどのようなシステムなのか、各国の高校と大学の接続問題から探索する。』と。

さらにこの本の目的として、「はしがき」の中に
『従来であれば、大学入試、入試改革の問題として扱われたであろうテーマが、最近は「高校と大学の接続」の問題として表現され、論じられることが多くなった。大学入試の問題が解決されたというわけではない。関連する問題の範囲が広がったのである。ひと言でいれば「大学入試の大衆化」である。その影響は初等中等教育、高等教育を含めて教育システムすべてに及ぶと考えねばならない。従来の大学入試の問題とは別の新しい教育問題としてこれを把握し、改善に向けて的確な対応と努力が求められている。本書は当該問題の背景、諸外国の取り組みの事例などを検討して、問題の理解を深め、解決の方向を示すことと目的とした』と書いてあります。そんな感じの本です。

この本を改めて今回ざっと目を通した中で私個人が印象に残ったものを感想も交えて3つピックアップすると、

①アメリカでは1990年代に入って、新しい入学選抜制度を導入する州がでてきたが、その根幹となる能力はコンピテンシーまたはプロフィシエンシーという概念で捉えている。実際に発揮された「行動」に着目する能力観である。さらに多項選択方式中心のテストから新評価法を取り入れるようになった。要は、生徒の学習の結果ではなくプロセスに注目し、学習の過程そのものを評価しようとしていることである。これは従来からの反省を下に、考え出させた能力観であり評価法である。「行動」に着目するとか、アメリカ的でなかなか興味深い取り組みだと見ている。

②ノースカロライナ州においては、高校コミュニテイカレッジ高等教育機関というルートが確立しており、高大間をスムーズに接続させる役割を果たしている。この柔軟な体制は、大学への接続点を入試の1点にしないことによる機会の拡大と、中・低の学力層の学力改善にもつながっているということにおいて評価できると思う。それも大学と高校の評価を共通化させたことにより可能となったことであり、参考にするべき事例と思う。

 
ドイツのように、アビトゥーアの試験を取得してもすぐに大学に進学しなくてもよいという柔軟性は、大学入試が資格試験化していることで可能となることであり、しかも、それだけ個人の専門性ということを重視した社会だからこそできることなのであろう。将来を考えるという意味においては、入試合格即入学ではなく、一定期間社会に出て物をみる又は自分を見つめなおすことによって、その後進学の動機もより強固になるであろうし、そうなればその後の高等教育への参加も実りあるものになるのではないかと思う。
最近では東京大学が導入を提唱している「学部生全面秋入学構想」に付随する部分で、春の入試はそのままで入学は秋、となると半年間の「ギャップターム」ができると、そしてその期間をどう過ごすのかっていうことが話題になっていますが、半年ではちょっと将来を考えるとかそういった意味では短いような気が・・・でも少しずつ日本も変わりつつはあるとは思う。
いずれにせよ、
序章、第Ⅰ部高校と大学の接続、第Ⅱ部アメリカの高大接続、第Ⅲ部各国の高大接続に構成となっており、高大接続問題を考える上で本書は非常にいい文献だと思います。

アメリカの高大接続では具体的な事例が詳細に紹介されていて、本気でこの問題を考えている方には、興味深い記述も多くあり、また重要な視点を与えてくれると思います。また個人的に面白かったのは各国の高大接続の中の特にフランスとドイツの内容で、そこだけでも読んで欲しいなと思っています。

※さて、フランスの教育については
『フランスの教育に見る、教育の現実』(アゴラ 言論プラットフォームより)のコラムもご覧になると面白いと思います。フランスの大学入試資格試験(バカロレア)の実情に始まり、グランゼコールに関すること、教育格差について等にまで話しは及んでいます。興味深い内容です。

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